※これは一般的な医療情報です。病気の性質上、症状は一人ひとり違います。治療や症状についての具体的なことは、必ず主治医とご相談ください。
Q.どんな病気ですか
CIDP は chronic(慢性)inflammatory(炎症性) demyelinating ( 脱髄性 ) polyneuropathy(多発神経炎)の略称で、2ヶ月以上にわたって進行する四肢の筋力低下と感覚障害を主な症状とする末梢神経の病気です。
人間の神経系には、脳・脊髄からなる中枢神経と、それ以外の末梢神経があります。末梢神経の一つひとつは、電気コードのように、電気信号を伝える内部の芯の役割をする軸索(じくさく)と、これを外から覆って絶縁カバーの役割をする髄鞘(ずいしょう)からできています。CIDP では末梢神経の髄鞘に炎症が起き、髄鞘を作っているミエリンという物質が壊されてしまいます。ミエリンが壊されることを脱髄(だつずい)といいます。脱髄により神経の電気信号が遮断されるため、さまざまな症状が現れるのです。現在では、CIDP はいくつかの異なる病態を含んだ症候群と考えられています。
Q.どうして起こるのですか
CIDP の原因は明らかにされていませんが、自己免疫疾患の一種と考えられています。私たちの体は、免疫によってウイルスや細菌などの外敵から守られています。ところが、何らかの原因によって免疫のバランスが崩れると、免疫システムに誤作動が生じ、誤って自分の体を攻撃してしまいます。CIDP は、自分の末梢神経の髄鞘、つまりミエリンを外敵と誤認してしまい、攻撃することによって起こるのではないかと考えられています。
Q.患者数はどれくらいですか
2021年の厚生労働省の研究班により行われた疫学的調査によれば、CIDPの全国推定患者数は4,180人で、類縁疾患である多巣性運動ニューロパチー(MMN)は507人、抗MAGニューロパチーは353人、人口10万人あたりの有病率はCIDPが3.31人、MMNが0.40人、抗MAGニューロパチー が0.28人でした。
Q.どんな症状が出ますか
CIDP の症状とその程度は、患者ごとに大きく異なります。最も多い症状は、手足の運動障害と感覚障害です。手足に力が入りづらい(脱力)、転びやすい(歩行障害)、物をうまくつかめない(握力・巧緻性の低下)、触った感じが分かりづらい(感覚鈍麻)、痺れやちくちくした痛みを感じる(感覚異常)などの症状が出ます。腱反射は一般に低下ないし消失します。典型的 CIDP では、このような症状が左右対称性に現れ、体幹に近い近位筋(上腕や大腿など)と体幹から遠い遠位筋(手先や足先など)が、同じように障害されます。一方、CIDP バリアントでは、症状が左右非対称に現れたり(多巣型)、遠位優位であったり(遠位型)、一側の神経叢に限局していたり(限局型)、また、運動障害のみ(純粋運動型)、感覚障害のみ(純粋感覚型)という病型もあります。 筋力低下による疲れやすさは、患者の多くが経験する症状です。位置覚の異常や筋肉の痛み、震えを伴うこともあります。少数ですが脳神経症状や自律神経症状の出る患者もいます。
Q.どのようにして診断されますか
CIDP の診断は容易ではありません。症状と各種検査から、他の病気の可能性を否定して総合的に判断されます。前述のような末梢神経障害の症状があることが基本です。必ず行われる検査は、末梢神経の電気信号の伝わりを調べる神経伝導検査です。CIDP では、脱髄があることを示す伝導速度の遅延と伝導ブロックが見られます。必要に応じて、脳脊髄液を調べる腰椎穿刺(ルンバール)や、末梢神経の形態を見るためMRIや超音波検査を行います。他の病気と鑑別が必要な場合には、くるぶしの外側の神経を採取する神経生検を行うことがあります。
Q.どんな治療がありますか
第一選択となるのは、免疫グロブリン療法や副腎皮質ステロイド薬や血漿浄化療法です。再燃・再発や進行を防ぐために副腎皮質ステロイド薬を内服または点滴する維持療法や、寛解導入において免疫グロブリンが有効な患者には免疫グロブリン静注(IVIg)や免疫グロブリン皮下注(SCIg)を定期的に投与する維持療法があります。どの治療法によく反応するかは病型や病態によって異なります。これらの第一選択の治療で効果が薄い場合には免疫抑制剤や生物学的製剤の使用が検討されることもあります。2024年には分子標的治療として胎児型Fc受容体阻害薬が新たに承認されました。また補体阻害薬や抗CD19/20抗体の治験が日本において進められており、これらの新規分子標的治療薬はCIDPに対する次世代治療になりうると期待されています。
Q.どんな経過をたどりますか
再発と寛解を繰り返す(再発寛解型)、慢性的に進行する経過をたどる(慢性進行型)があり、障害が軸索にまで及ぶと筋委縮による後遺症が問題になります。一方で、1回の症状発現のみで寛解後、生涯再発をしない人もいます。
Q.どんなことに気をつければよいですか
一般的に健康に良いと言われる生活を送るのが第一です。風邪や過労やストレスは再発の引き金となることがあるので、自分の体調をよく知ったうえで行動するようにしましょう。適度な運動やリハビリも大切です。
監修/千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学 名誉教授 桑原聡先生