CIDPとは?

※これは一般的な医療情報です。病気の性質上、症状は一人ひとり違います。治療や症状についての具体的なことは、必ず主治医とご相談ください。

Q.どんな病気ですか

CIDP はchronic(慢性)inflammatory(炎症性) demyelinating( 脱髄性) polyneuropathy(多発神経炎)の略称で、2ヶ月以上にわたって進行する四肢の筋力低下と感覚障害を主な症状とする末梢神経の病気です。人間の神経系には、脳・脊髄からなる中枢神経と、それ以外の末梢神経があります。末梢神経の一つひとつは、電気コードのように、電気信号を伝える内部の芯の役割をする軸索(じくさく)と、これを外から覆って絶縁カバーの役割をする髄鞘(ずいしょう)からできています。CIDP では末梢神経の髄鞘に炎症が起き、髄鞘を作っているミエリンという物質が壊されてしまいます。ミエリンが壊されることを脱髄(だつずい)といいます。脱髄により神経の電気信号を伝える速度が遅くなったり遮断されたりするため、さまざまな症状が現れるのです。現在では、CIDP はいくつかの異なる病態を含んだ症候群と考えられています。

Q.どうして起こるのですか

CIDP の原因は明らかにされていませんが、自己免疫疾患の一種と考えられています。私たちの体は、免疫によってウイルスや細菌などの外敵から守られています。ところが、何らかの原因によって免疫のバランスが崩れると、免疫システムに誤作動が生じ、誤って自分の体を攻撃してしまいます。CIDP は、自分の末梢神経の髄鞘、つまりはミエリンを外敵と誤認してしまい、攻撃することによって起こるのではないかと考えられています。

Q.患者数はどれくらいですか

CIDP は患者数の少ない稀な病気です。2004 ~ 2005 年に行われた全国調査の結果によれば、人口10 万人あたりの有病率は1.61 人、発症率は0.48 人、男女比は1.6:1 と報告されています。高齢男性に多い傾向がありますが、幅広い年齢層で発症しています。2015 年度末の特定医療費受給者証の所持者数は、4,676 名(多巣性運動ニューロパチー〔MMN〕を含む)でした。

Q.どんな症状が出ますか

CIDP の症状とその程度は、患者ごとに大きく異なります。最も多い症状は、手足の運動障害と感覚障害です。手足に力が入りづらい(脱力)、転びやすい(歩行障害)、物をうまくつかめない(握力・巧緻性の低下)、触った感じが分かりづらい(感覚鈍麻)、痺れやちくちくした痛みを感じる(感覚異常)などの症状が出ます。腱反射は一般に低下ないし消失します。典型的CIDP では、このような症状が左右対称性に現れ、体幹に近い近位筋(上腕や大腿など)と体幹から遠い遠位筋(手先や足先など)が、同じように障害されます。一方、CIDP バリアントでは、症状が左右非対称に現れたり(多巣型)、遠位優位であったり(遠位型)、一側の神経叢に限局していたり(限局型)、た、稀に運動障害のみ(純粋運動型)、感覚障害のみ(純粋感覚型)という病型もあります。筋力低下による疲れやすさは、患者の多くが経験する症状です。位置覚の異常や筋肉の痛み、震えを伴うこともあります。少数ですが脳神経症状や自律神経症状の出る患者もいます。急性の脱髄性末梢神経炎であるギラン・バレー症候群(GBS)が、発症から数日間で急激な筋力低下をきたすのに対して、CIDP の場合は数週間から数ヶ月以上にわたって緩やかに進み、いったん治まった症状が再発・再燃を繰り返すのが特徴です。

Q.どのようにして診断されますか

CIDP の診断は容易ではありません。症状と各種検査から、他の病気の可能性を否定して総合的に判断されます。前述のような末梢神経障害の症状があることが基本です。必ず行われる検査は、末梢神経の伝導速度を調べる神経伝導検査です。CIDP では、脱髄があることを示す伝導速度の遅延と伝導ブロックが見られます。必要に応じて、脳脊髄液を調べる腰椎穿刺(ルンバール)や、末梢神経の状態を見るためMRIを行います。他の病気と鑑別が必要な場合には、くるぶしの外側の神経を採取する神経生検を行うことがあります。

Q.どんな治療がありますか

第一選択となる治療は、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)、副腎皮質ステロイド薬、血液浄化療法です。多くの患者がこれらの治療のいずれかに反応しますが、どの治療によく反応するかは病型や病態によって異なります。多くの場合、症状が治まった寛解期にも再燃・再発を防ぐために、IVIg を定期的に反復投与したり、副腎皮質ステロイド薬を内服したりする維持療法を行います。これらの標準的な治療法で効果が薄い場合には、免疫抑制剤や生物学的製剤の使用が検討されることがあります。

副作用に気をつけながら、自分に合った治療法を見つけ早期治療に入ることが大切です。近年、難治症例に対する治療法として、中枢性脱髄疾患である多発性硬化症(MS)の治療薬をCIDP に応用する研究などが進められています。

Q.どんな経過をたどりますか

多くの人が再発と寛解を繰り返します。治療により症状は、改善されます。中には、一回の症状発現のみで二度と再発をしない単相性の経過をたどる人もいます。慢性的に進行する経過をたどる場合もあり、軸索にまで障害が及ぶと筋萎縮による後遺症が問題になってきます。

Q.どんなことに気をつければよいですか

一般的に健康に良いと言われる生活を送るのが第一です。風邪や過労やストレスは再発の引き金となることがあるので、自分の体調をよく知ったうえで行動するようにしましょう。適度な運動やリハビリも大切です。

文章/全国CIDP サポートグループ医療情報部
監修/神田隆 先生(山口大学大学院医学系研究科臨床神経学脳神経筋センターよしみず病院院長)